拒食症の人は、周囲が見ると驚くほどがりがりに痩せています。
そのがりがりの身体を、本人は「良い」と思っているようにも見えるので、周囲は不思議に思うこともあるでしょう。
実は、このがりがりの骨だけの身体は、本人にとって、周囲から自分を守るための「鎧」ではないかと思っています。
心細くて死にそうな自分を、がりがりの鎧で固めて守っているのです。
今回は、私たちの心細さと辛さ、がりがりの身体にこだわる理由について、考えてみたいと思います。
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Contents
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1.拒食症の人は、自己肯定感がゼロ
拒食症の人は、自己肯定感が低いことが多いです。
つまり、自分を適切に評価できないのです。
そんなことを言うと、「普通の人でも、自分を好きだなんて思っていない」と言うかも知れません。
しかし、私たちの自己否定感は、そんな程度のものではありません。常に自分を否定し続けていると思えば良いです。起きている間、24時間ずっとです。
私の場合も
「自分は最低な人間」
「人間として、価値が低い」
と感じます。
たとえば昔、身分制度があった頃の「奴隷」のようなものです。
「そもそも価値が低い」とされているので、何をしても「ダメ」なのです。
人よりうまくできても「ダメ」です。「自分」でいる限り、価値が低いので、認めることができません。
もちろん、人よりできなかったら、さらに「ダメ」です。
だから、自分を極限まで追い込みます。
追い込んでも満足することはなく、切りがありません。
自分がくだらなく、汚いもののようにも感じます。
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2.自己否定感が強くなる原因は、家族関係
私がこうなったのは、母親の影響が大きいです。
母が、私が小さい頃から何をしても認めることがなく
「できて当たり前」
という態度で接していたからです。
そのことで私は
「周りの子は、良くできたら褒められているけれど、自分の場合は褒められない」
「周りの子は、心配してもらっているけれど、自分は心配されるということがない」
「これは、自分が周りの子よりも価値が低いからに違いない」
小さい頃からそういう考えをすり込まれて、自己肯定感を持たない人格に育ちました。
中学校の頃も高校の頃も、ずっと自分がしょうもなく、心細く、価値がなく、居場所がないと感じていました
3.すべてを拒絶することで、自分を守る
こんな自己否定感の強い状態で、人間がずっと心の平衡を保てるはずはありません。
私の自己否定感が爆発してしまったのが、大学受験のときです。
このとき、家族内でもいろいろあって、やはり私が大学受験するというのに、母は私のことをほとんど無視していました。
それまでもずっとそうでしたが、そのときは、私ももう限界でした。
「愛されたい、認められたい」
そう思ってどんなにもがいても、親は私の方を見ない、愛さない。
結局、求めても認められずに苦しむくらいなら、
「すべてを自分の方から断ち切ろう」と思いました。
自分から断ち切ったら、
「拒絶されて苦しい思い」
をせずに済みます。
これまでの辛かった17年間のジレンマから、解放されるのです。
それで、私はご飯を食べなくなりました。
不思議と気持ちが落ち着きました。
それまでは、母が私のことを見ないので苦しんでいましたが、
「もうご飯も食べないし、何も受け付けない」
そう思ったら、何となく平気な気分になりました。
すべてを拒絶して、体重をコントロールすることだけで、自分を保つようになりました。
体重はどんどん減っていきましたが、心は快適でした。
もう、母を求めても拒絶される苦しみがなくなったからです。
「ずっと1人でいいや」「私は1人」
そう思いながら、毎日を過ごしていました。
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4.心が完全に冷え切っていて、骨の鎧に閉じこもる
そうして世の中のすべてを断ち切り、骨の鎧に閉じこもったのが、私の拒食の始まりです。
体重が減り、身体がガリガリになりました。
がりがりの硬い身体は、周囲から見たら頼りなげに見えるのかも知れませんが、私にとっては自分を守る唯一の鎧でした。
周囲の世界は、私を攻撃してくるだけ。
私が求めても、手に入らない。振り向いてくれない。
自分はくだらない人間。何をしても、人よりうまくこなしても、自分が自分でいる限りは、どうしようもない。
それならば、自分一人の世界に閉じこもるしかないでしょう?
だから、私は1人になった。
1人でガリガリになり、骨の鎧に閉じこもることを選びました。
心は冷え切って動かなくなりましたが、傷つくことがなくなりました。
私は、そのがりがりの鎧から、今でも抜けることができません。
今の私も、昔と変わらず自己肯定感が低いままです。
自分はしょうも無い人間だと思いますし、自分を責めます。
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5.拒食症の人に「体重を増やせ」と言っても無駄
私たちに、単に「体重を増やせ」と言っても無駄なのは、こういった心の問題があるからです。
「身体が元気になる、健康になる、キレイになる」
そんなことは、何の意味も無いのです。
がりがりの身体がなくなったら、自分を攻撃してくる世の中と対峙しなければなりません。
自己肯定感が低い限り、そんなことは不可能です。脆い心が、一瞬で粉砕されてしまいます。
心の問題を解決しないと、この病気は治らないのです。
「拒食症は、体重さえ増やせば治る」
なんていうのは嘘です。
私も一時、体重が普通程度に戻ったことがありますが、根本的な心の問題が解消されていなかったので、結局前より痩せて、酷い瀕死の状態になりました。
6.拒食症を知ることのできる本
私たち拒食症の人の心の動きを丁寧に書いた小説があります。
「鏡の中の少女」という本です。
この本の主人公フランチェスカは、ダイエットをきっかけに拒食症になります。
自分でも気づいていませんが、本当の理由は、家族の中に居場所がなかったからです。
主人公は「フランチェスカ」という名前ですが、食べない自分(拒食の自分)のことは「ケサ」と呼んでいます。
つらいときには「ケサケサ」と心の中でつぶやくと「強い自分」になります。
「ケサ」は、周囲が自分をかまわなくても、傷ついたりはしません。
がりがりの鎧があるという私の発想と同じです。
私は、最初に拒食症になったときに、この本を読みました。そして、「私と一緒だ!」と思い、衝撃を受けた覚えがあります。
私の心の中にも、脆くて弱いフランチェスカと、がりがりの鎧でフランチェスカを守ろうとするケサがいます。
もしも、拒食症について知りたい場合には、是非とも読んで見ていただきたい一冊です。
鏡の中の少女
続編の、鏡の中の孤独です。
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